
雨
長雨
眺めて
いつから
降っている
雨なのかさえ
忘れてしまって
ああわたしのほほ
ああわたしの髪
すべて移ろう
まるで雨に
降られた
さくら
桜の
花
※花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに(小野小町)
今ゆくよとあなたからのメール
着信を示す光が夏の名残の
蛍のような明滅をして
約束のはかなさを
感じていたのに
九月の朝方の
月がみえる
ころまで
待って
いた
私
※今来むといひしばかりに長月の有明の月を待ちいでつるかな(素性法師)
ああ、また秋が
すぎ去ります
お約束して
下さった
ときの
草の
露
程の
お心を
いのちと
頼みにして
きましたのに
ああ、また秋が
※ちぎりおきしさせもが露をいのちにてあはれ今年の秋もいぬめり(藤原基俊)
広い野原を分けて
湧いてながれる
恋するこころ
あのひとを
いつみた
ためか
湧く
泉
※みかの原わきて流るる泉川いつ見きとてか恋しかるらむ(中納言兼輔)
白いワンピース
白い Tシャツ
白、白、白
はためき
季節は
もう
夏
※春過ぎて夏来にけらし白妙の衣干すてふ天の香具山(持統天皇)
恋
顔に
表れて
しまって
もの思いを
しているかと
訊かれるよ
こんなに
秘めて
いる
恋
※忍ぶれど色に出でにけりわが恋はものや思ふと人の問ふまで(平兼盛)
広い広い海原に
船を漕ぎ出し
みはるかす
沖の波は
まるで
白い
雲
※わたの原漕ぎ出でてみればひさかたの雲居にまがふ沖つ白波(法性寺入道前関白太政大臣)
夜
篝火
燃えて
燃え盛る
恋のおもい
昼
篝火
消えて
消え入る
程のおもい
※御垣守衛士のたく火の夜は燃え昼は消えつつものをこそ思へ(大中臣能宣)
夏の夜は儚く
未だ宵だと
思ううち
明けて
月
どこか
雲の中に
隠れ宿って
いるだろうか
※夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを雲のいづこに月宿るらむ(清原深養父)
あなたがいない
ひとりで眠る
夜のながさ
ながさは
山鳥の
長い
尾
※あしひきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む(柿本人麻呂)
命永らえるにつれて
想いを秘める心が
弱ってゆくなら
ねがうことは
ただひとつ
わたしの
鼓動よ
止ま
れ
※玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることの弱りもぞする(式子内親王)
わかちあった
おもいでを
語りあう
友との
再会
は
夜半
月の姿
雲の中に
隠れる様に
はかなかった
※めぐり逢ひて見しやそれともわかぬまに雲がくれにし夜半の月かな(紫式部)
ゆるさないったら
ゆるさないのよ
鳥の鳴きマネ
なんかして
あたしの
まもる
この
関
越え
逢おう
逢おうと
したってね
騙されないわ
ゼッタイ逢って
あげたりしないわ
※夜をこめて鳥のそら音ははかるともよに逢坂の関は許さじ(清少納言)
風
雲の
ゆく道
閉ざして
とどめおけ
美
天に
属する
舞姫らの
このすがた
※天つ風雲の通ひ路吹きとぢよ乙女の姿しばしとどめむ(僧正遍昭)
身の程知らずかも知れぬが
この辛いうき世の人々に
覆いかぶせ仏の加護を
祈りたいと存ずるよ
覆いかぶせるのは
出家者として今
ここ比叡山に
住みそめた
墨染めの
僧衣の
わが
袖
※おほけなく憂き世の民におほふかなわが立つ杣に墨染めの袖(前大僧正慈円)
夕風に楢そよぐ
ならの小川は
秋の涼しさ
だけれど
みそぎ
とて
身
洗う
儀式が
今は夏と
わからせて
くれるしるし
しるしなのです
※風そよぐならの小川の夕暮れはみそぎぞ夏のしるしなりける(従仁位家隆)

空を仰ぐと見える
あれはふるさと
春日にいた日
三笠の山に
出ていた
おなじ
あの
月
※天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも(安倍仲麻呂)
京の都の東南で
こころ安けく
住むわが庵
世の中を
憂しと
する
者
住む
ところ
宇治山と
人々は呼ぶ
何と不思議な
ことかと思うよ
※わが庵は都の辰巳しかぞ住む世をうぢ山と人はいふなり(喜撰法師)
この世去る時迫る今
ああ、もういちど
愛しいあなたに
お逢いしたい
あの世への
せめての
思い出
恋の
証
※あらざらむこの世のほかの思ひ出に今ひとたびの逢ふこともがな(和泉式部)
大江の山や生野行く
旅して天の橋立を
踏みみたことも
かつてないし
母からの文
みた事も
私まだ
ない
わ
※大江山いく野の道の遠ければまだふみも見ず天の橋立(小式部内侍)
ふたりの人生が
激流のように
岩にあたり
別れても
流れの
その
末
一つ
になる
ごとくに
また必ずや
必ずや会おう
それが私の思い
※瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ(崇徳院)
遠いみちのくで刷られた
しのぶもじずり模様の
布の模様は乱れ乱れ
私の心も乱れ乱れ
それは誰のため
あなた以外の
誰のためと
お思いに
なるの
です
か
※陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにしわれならなくに(河原左大臣)
いいえわたくしは
忘れられるのは
辛くはないの
ただあの人
神かけて
誓った
この
恋
捨て
神罰で
命落とす
でしょうと
思うにつけて
それが惜しくて
仕方ありませんの
※忘らるる身をば思はず誓ひてし人の命の惜しくもあるかな(右近)
これがあの逢坂の関
東国へゆく旅人も
都へ帰る旅人も
知っている人
知らぬ人も
逢っては
別れる
この
関
※これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬもあふ坂の関(蝉丸)
今
別れ
因幡の
国へ行く
わたしだが
松
そう
待つと
聞いたら
すぐ帰るよ
※立ち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かばいま帰り来む(中納言行平)
かなしいよぉー
と叫ぶ声響く
山の奥深く
紅の葉を
踏んで
鳴く
鹿
私も
心震え
叫びたい
秋、秋、秋
秋はこんなに
かなしいよぉー
※奥山に紅葉ふみ分けなく鹿の声きくときぞ秋は悲しき(猿丸大夫)
波
寄る
ように
あなたに
寄るこころ
夜の夢にさえ
人目を気にして
逢えないのは何故
寄せては返す恋の心
※住の江の岸に寄る波よるさへや夢の通ひ路人目よくらむ(藤原敏行朝臣)
秋の田の傍ら
仮の小屋で
刈り穂を
守る夜
屋根
の
目が
粗くて
私の袖は
露に濡れて
濡れつづける
※秋の田のかりほの庵の苫をあらみわが衣手は露にぬれつつ(天智天皇)
月
見る
こころ
悲しいよ
私ひとりに
秋
来た
という
わけでは
ないけれど
※月見ればちぢにものこそ悲しけれわが身ひとつの秋にはあらねど(大江千里)
小倉山の峰をいろどる
紅葉よお前のすがた
子にみせたいとの
上皇さまの親心
わかるのなら
天皇さまの
おいでを
散らず
待て
よ
※小倉山峰のもみぢ葉心あらばいまひとたびのみゆき待たなむ(貞信公)
漁師の小さな舟よ
皆に告げてくれ
海原の多くの
島をめざし
舟出した
流罪の
私の
姿
※わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと人には告げよ海人の釣舟(参議篁)
天上の鵲が
渡す橋も
宮中に
ある
霜
おく
階段も
白い白い
夜更けだよ
※かささぎの渡せる橋におく霜の白きを見れば夜ぞふけにける(中納言家持)

浦
から
眺める
富士山に
まっしろに
降りしきる雪
※田子の浦にうち出でてみれば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ(山部赤人)
歌垣の地筑波の山の峰
流れ落ちるみなの川
その滴が積もって
深いふかい淵を
つくるように
わが恋の心
積もって
つくる
深い
淵
※筑波嶺の峰より落つるみなの川恋ぞ積もりて淵となりぬる(陽成院)
神々の代でさえ
こんなことが
あったとは
聞かぬよ
竜田の
川
紅葉で
くくり染め
したかの様に
なっているとは
※ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは(在原業平朝臣)
難波潟にしげる葦の
節と節との間ほど
短いあいださえ
お逢いせずに
この世をば
過ごせと
いうの
です
か
※難波潟短き葦のふしの間も逢はでこの世を過ぐしてよとや(伊勢)
逢って共寝をするという
名前を持っているのは
逢坂山のさねかづら
くるくるくるくる
たぐるようにね
きみのもとへ
くる方法が
ないかな
誰にも
内緒
で
※名にし負はば逢坂山のさねかづら人に知られで来るよしもがな(三条右大臣)
あなたに春を
告げようと
野に出て
若菜を
摘む
私
まだ
早春の
野は寒く
衣の袖には
雪降りかかる
※君がため春の野に出でて若菜つむわが衣手に雪は降りつつ(光孝天皇)
澪標みおつくし
難波にあるよ
身を尽くし
逢おうと
思うよ
破滅
を
して
もいい
逢えずに
これ程辛い
今となっては
同じことだから
※侘びぬれば今はた同じ難波なるみをつくしても逢はむとぞ思ふ(元良親王)

誓いましたよね
涙でぬれた袖
互いに絞り
絞りつつ
私たち
高い
波
末の
松山を
越さない
そのように
心変わりなど
決してしないと
※契りきなかたみに袖をしぼりつつ末の松山浪こさじとは(清原元輔)
夜がほのぼのと
明けゆく頃に
輝きながら
降り続く
吉野の
里の
雪
その
白さは
神々しく
有明の月の
光だろうかと
見間違える程だ
※朝ぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里に降れる白雪(坂上是則)
うつくしく咲きほこり
照り映える八重の桜
古い奈良の都から
京の宮中九重に
今日献上され
七、八、九
音さえも
重なり
匂う
花
※いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重に匂ひぬるかな(伊勢大輔)
人
その
こころ
わからぬ
ふるさとは
梅
昔と
おなじ
かおりで
私を迎える
※人はいさ心もしらずふるさとは花ぞ昔の香ににほひける(紀貫之)
友
友よ
いまは
いったい
だれをそう
呼べばよいか
かの長寿を誇る
高砂の松の木とて
わが昔からの友では
ないのであるからして
※誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに(藤原興風)
霞
霞よ
立つな
里に近い
山の辺りに
遠く高い山の
桜があんなにも
美しく咲いたのを
隠さないでおくれよ
※高砂の尾の上の桜咲きにけり外山の霞立たずもあらなむ(前権中納言匡房)
桜
はら
はらり
はらはら
散りいそぐ
これ程までに
ひかりがあふれ
穏やかな春の日に
なぜなのだろうなあ
※久方の光のどけき春の日にしづこころなく花の散るらむ(紀友則)

冷たく冴えた
あけがたの
つれなく
見えた
人と
月
あの
別れの
とき以来
暁ほど辛い
ものはないよ
※有明のつれなく見えし別れより暁ばかり憂きものはなし(壬生忠岑)
恋
する
私の噂
はやくも
立ったなあ
誰にも誰にも
知られる事なく
ひそかにあなたを
おもいはじめたのに
※恋すてふわが名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひそめしか(壬生忠見)
梶
失い
漂って
いる舟人
そのように
ゆくえが
しれぬ
恋の
道
※由良のとをわたる舟人かぢをたえゆくへも知らぬ恋の道かな(曽禰好忠)
あなたと逢瀬
そののちの
せつない
切ない
この
心
逢う
まえは
物思いが
なかったと
思える程です
※逢ひ見ての後の心にくらぶれば昔は物を思はざりけり(権中納言敦忠)
ここまでで50首
たとえ私が虚しく死すとも
ああ、お気のどくにとも
言ってはくれぬだろう
そう思いつつなおも
あなたを恋い慕い
恋いしたいつつ
本当に虚しく
なってゆく
この身で
あろう
こと
よ
※あはれともいふべき人は思ほえで身のいたづらになりぬべきかな(謙徳公)
風
強く
吹いて
岩を打つ
波が砕ける
さまのように
私
一人
だけが
恋に乱れ
もの思いを
するこの頃よ
※風をいたみ岩打つ波のおのれのみくだけてものを思ふころかな(源重之)
あなたのためならば
惜しくはないよと
思っていたのに
逢瀬かなった
今となれば
長く長く
あれと
願う
命
※君がため惜しからざりし命さへ長くもがなと思ひけるかな(藤原義孝)
忘れはしないとの
あなたのお言葉
遠い将来まで
信じるのは
難しいわ
いっそ
今日
命
絶え
死んで
しまえば
幸せなまま
終われるかと
そう思っている
わたしなのですよ
※忘れじのゆく末まではかたければ今日をかぎりの命ともがな(儀同三司母)
「「トライアングル▽トランスレート▲百人一首」とがし ゆみこ」に6件のコメントがあります