
銀紙の中、僕は眠りながら夢をみる。あなたに刻まれて、好みの甘さと形に固定されていく瞬間の、
僕だけど僕じゃない僕を。好きだという、単純な理由で生きれなくなった僕に、あなたは、粉々にし
て生きてよと言う。レシピにない言葉だったりする。僕よりも、もっと傷つきながら、本物を探して
いたのかもしれない。リキュールのオレンジは夕焼けを閉じこめたままだということを僕は知らない
まま。少しずつ、夜空と同じく冷たくなっていく瞬間に、銀色の星は瞬く。ゆっくり脚から温める、
指先の感覚を取り戻すまで握りしめているからねという囁きは、計算されたものだったりするから、
物悲しい気もする。かわいたフルーツが水分を求めなくなる。酸味が少しでも残っているうちに、僕
も、あなたのアクセントになって、噛み砕かれたい。でも、あなたには、中毒になってほしくない。
本心とは、反対の気持ちをラッピングするのは、やめなよ。と、言えたらいいのに。
(サトウアツコ)
銀紙に包まれた物語のビターな生き方に惹かれ
心は雲の形に打ち抜き君の願いの形で押し出す
多分にここは銀河のフラクタル模様に季節のハ
ーブを織り込んだフィクションにしてしまおう
シャトルは風を切って糸道の順番を違えずハミ
ングバードのように恋を謳いあげ謳いつづける
主人公でいるためのプロフィールは勿論のこと
誇張はあったが騙すつもりはもうとうなかった
織姫の技量に酔い君に寄せる仄かな恋心そして
「今度お会い出来ませんか」の DMにとまどう
ならぬならぬ明かしてはならぬ壊してはならぬ
目蓋は押さえても容積いっぱいからこぼれ落ち
筋書きから覚めてしまえば存在は塩気を引いて
頬に筋を残すがとある儚いエピローグに憧れる
最後まで容姿に似合わない台詞にラメを振った
「粉雪の降る日チョコレートを一緒に飲もう」
仮想の銀紙国のギンガムチェックに身を包んで
(天野行雄)
カリ、カリ、カリ。尖った八重歯は君のチャームポイントだった。橙の香りと肩を並べて真っ直ぐに
伸びる道を歩く。可憐であればあるほど、口の中がカラカラに渇いていく過程が演出されることを知った。名残りは記憶より疎ましく愛しいもの。無心で握り潰した銀紙のいびつな形は、理想通りにいか
ない物語未満の恋のメタファーとして僕らに寄り添っていた。着地点も分岐点もない、ひたすら真っ
直ぐ伸びる道をふちどるように、まるで春みたいに純潔であたたかい橙が立ち上っている。カリ、カ
リ、カリ。小気味いい音。鼻から、耳から、口から、貪欲に憧れている。まだ続く。この道も、この
味も。なくなるまで続く。美しく消化したい。キスに銀紙、甘味の最上級は苦味だということを発見
した。カリ、カリ、カリ。君の味がした。八重歯に月の光が反射して夜を照らす。喉がとても渇いて
いるけど、ケセラセラ。確かなことはひとつも無いと誰かに自慢したくなる。
(タムラアスカ)
固くなったぼくをきみはしっかり齧り溶けていく
ぼくをきみは味わい呑みこんだ甘いおもいしろい
いろがすきだというきみをぼくはわらわせあたえ
あう濃厚な甘さの中でふたりは喜びあいすべてに
満足し輝いたギラギラと熱をもちキラキラと光を
放つふたつの恒星のように互いの周りを廻り巡り
ふたりの関係は永遠につづくと思っていたんだ」
変わったのはぼくなのかきみなのか」
変わったのは甘みなのか苦みなのか」
閉じたこころは熱を失っていく」
冷めたココロは固くなっていく」
与えあわない」
与エアエナイ」
カケ」
ラ欠」
苦みをBeerで流し込む」
あれほど輝いていた月の夜」
(こひもともひこ)
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