楽紙9「約束の天使」

2018年11月14から11月26までツイッター上で募集した作品です。具体的には #楽詩 タグをつけて、イラストにあう詩歌やショートストーリーを投稿するもので、詩形は三角形の「三角定規詩」または四角形の「シカクカシ」であるか、自由というお題でした。透明感のある女性と羽のイラストから、天使をモチーフにしたり、天国にいる女性を想像したりなど、美しい作品が生まれました。(豊増美晴)

視線の先にあなたを見つけた

じっと見つめる

ちょっとだけ恥ずかしくて、睫毛が震える

どんどん愛おしい気持ちが募ってきて……

私は、あなたの瞳をじっと見つめる

優しい気持ちが、ふわりふわりと降ってきた

あなた色の優しい羽根が

(文月八千代)

春が似合う――

ありきたりかもしれないけど、君を言い表すにはこの言葉しか、僕には思い浮かばない。

桜吹雪が舞う中、振り返った君の瞳をずっと忘れなかったんだ。

――十年後。またここで会おう。

あの木の下で約束したのを、君は覚えているだろうか。

そして今日がその日であることも。

他愛もない幼い約束。しかも十年も前のこと。

再び会えるはずもないのは分かっている。

でも僕はこの日を夢見てきた。

平日だから有給を取る理由にも苦労したんだぜ。

馬鹿だよな。

昼下がりの中、三十路を迎えた男が公園の中を歩いているのは違和感しかない。

麗かな陽射しを浴びた木々があやなす地面の影さえも愛おしい。

もうすぐだ。あともう少しだ。

高鳴る胸は山のようであった。

そして……。

ついに僕はたどりついた。

あの日と同じ。

桜の花びらが舞い、空の青さに薄い桃色を足している。

でもそこに君はいなかった――

「これが現実だよな」

儚い夢が破れると同時に、視線が地面へと落ちていく。

僕は現実に帰るべく、一歩足を踏み出した。

……と、その時だった。

はたはたと鳩が舞う音が聞こえてくると同時に、僕の目に飛び込んできたのは……。

あの日とまったく同じ。

振り返った君だった。

少しだけ驚いた表情が、すぐに眩しい笑顔に変わる。

そして春の陽射しのような声でこう言った。

「覚えていてくれてたんだ」

やっぱり君には春が似合う。

だから僕は春が好きなんだ――

(友理 潤)

すれ違いざまの微笑みに

天使かと目を見開いた

背中に羽根がないか確かめたのは僕だけだろうか

その時からすっかり恋に落ちて

告白もできず

忘れられないままに20年経った

そして奇跡の再会が訪れた

優しい笑顔と舞う羽根

あの時と全然変わらない若さ

やはりきみは天使だった

(衣未)

黄色に染まる大きな銀杏並木。

その下にあるベンチにも、黄色の羽のような葉が落ちていた。

小春日和の暖かな陽が、より一層辺りを黄色一色に染めていた。

「よっこいしょ。」

一人の老人が、杖をつき、ベンチに近寄り、ゆっくりと座る。

「気持ち良い日だのう。」

誰にとも無くつぶやく。

老人はゆっくりと、日光浴を楽しむように目を閉じた。

緩やかな時間が流れた。

「やっと、会えましたね。」

いつの間にか、老人の隣に若い女性が座り、微笑を浮かべた。

目を開け、一瞬驚いた表情は直ぐに優しい慈しむ顔になった。

「やっと、会えたね。」

老人は彼女に穏やかな声をかける。

「君にたくさん話したいことがあるんだ。」

「そうね。会えなかった間のこと。」

「色んな女とも会ったよ。」

「そうね。」

「でも、私には君だけだったよ。」

「そう。それで、貴方は幸せでした?」

「そうだな。幸せだった。でも、一番今が幸せだ。」

目を閉じた老人の顔は幸福に満ちていた

(悠真)

彼方

を見る

老齢の私

ほほえむ君

散りゆく羽が

ふわり肩に乗り

深い眠りへさそう

さらば、愛しき世界

私の手を握る君の感触

(violet)

がね

舞って

いますね

こんなにも

沢山の羽根が

秘密だったの?

恨んではいません

でも今夜は少しだけ

寒さを我慢しましょう

布団が痩せちゃったから

あなたが羽根を隠していた

(こひもともひこ)

あれ

神の聲

届く場所

忘れ得ぬ人

眩しいばかり

バンドワゴンと

レディ・ローズを

喝采の代わりに

君にささげる

僕は舞台を

最後まで

見守る

観客

(mimi)

朧に

薫る風

彩りは虹

煌めく微笑

何故に妖艶に

見つめあおうと

天使の羽を纏いて

時を止めてまで

超越する優美

受容のみが

許される

それは

恋と

(末松 努)

ダウンタウンには雪が降り

忙しない人の足を止める

鉄道も高速道路も今は

静かな夜を彩る為の

イルミネーション

師走だって時に

歩くのもいい

初雪は軽く

微笑んだ

天使が

落す

(杜 琴乃)

夢覚める朝顔の一時

の       鳥

中       草

で       が   

交       咲

し       い

た       た

杯の場所は羽舞う丘

(流歩詩)

夢を見た。背中に羽が生えて、天使みたい、と喜んでいる貴女。頭上に浮かべる光輪をプレゼントしに行ったら、もっと喜んでくれるだろうか? それとも、どうして来たの、と怒るだろうか? 天国と地獄。実在するとは思わないけれど、貴女がもしも天国に居るのであれば、貴女の居ないこの場所は地獄だ。

(イリト)

ひかりひかりひらりひらりのみちる中うまれたままのほほ笑みに佇つ  

(とがし ゆみこ)

光が

君から

溢れでる

眩しすぎて

覆ってみても

引き寄せられる

輝いてみたくなる

星になれるだろうか

現れる不安を振り払い

前を向いて歩んでみよう

例え君の星になれなくても

(紅育)

射す

その時

気づいた

無垢な天使

忘れたはずの

胸のドキドキと

甘くズキズキ疼く

羽の数だけ泣いた夜

知る由もなかった恋に

振り回されて戸惑う

全てを知っている

はずなのに神様

教えないのは

ただ彼女に

嫉妬した

神様の

意地

(流歩詩)

(すきだよ)を伝えるような触れかたを記憶のなかのきみはするのに

(雨虎俊寛)

伝えたいことばは一つ「ありがとう」天使の階段駆けあがるひとへ

(知己 凛)

笑ひ、戯れ、飛びはね、又抱き

さんざ時間をちぢめ

数日を一瞬に果す

愛する心のはちきれた時

あなたは私に会ひに来る

すべてを棄て、すべてをのり超え

すべてをふみにじり

又嬉嬉として

(高村光太郎「人に」より)

楽紙9「約束の天使」

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